CASE 03 うなぎの寝床を活かす
ALLにKさんが訪れ、最初に相談したのは、耐震補強を含めた大改築でした。京都市内繁華な場所にあったKさんの住まいは、築80年の京町家。しかし、現場調査を行った結果、床下のカビや土台の腐食が判明しました。耐震補強を含む建築費用は、高額になるだろうと判断したKさんは、思い切って新築をする決断をしました。
生まれてからずっと、京町家という伝統的な住まいで暮らしてきたKさんが求めたのは、「京町家の名残りを感じることができ、温かく快適に過ごせる現代的な家」。そして、もうひとつは「明るすぎない家」であること。
その要望を受け、設計担当の篠田はまず、通り土間を模した、建築を縦断する廊下を設置。その廊下に沿って、キッチン、バスルーム、洗面所、トイレをレイアウトし、突き当たりには、離れをイメージした和室を設けました。
ダイニング側に、町屋では「火袋」と呼ばれる、2階の天井までの吹き抜けをとり、天窓を設置。廊下を挟んだ反対側には、2間続きの和室と庭を配した設計を起こしました。
次に、「明るすぎない家」という命題に対して。K邸は両隣の家との間が30~40㎝しかない、京都ならではの条件で、命題とは逆に、少し光を入れる工夫が必要でした。しかし、和室の窓は庭を望む高さにとどめ、明るすぎない空間となるように配慮されています。
完成した家を眺めると、通り土間を模した廊下と幕板によって奥行きが一層引き立てられ、伝統的な京町家の構成をモダンに昇華させた住まいであることが一目でわかります。1階の建具の高さは、障子の寸法に合わせ一間(180cm)で統一。また、K邸の大きな特徴である2間続きの和室と、離れ風の3つの和室は、もてなしの間、茶の間、仏間とそれぞれ趣きが異なり、単調になりがちな和の空間に変化をもたらしています。
内装は基本的にタモの無垢材を使用し、壁はわら屑を練りこんだ珪藻土、床にはナラの無垢材を使用しています。和室の建具は、あえて懐かしさを演出するためにカシュー塗りを特別に製作。茶の間には丸窓をもうけ、左官職人の手によって切り出し部分が美しく丸められました。何気ないところまで心配りの行き届いた仕上げによって、K邸の和の趣きは一層深みを増したのです。
それは、外装もしかり。木や石、モルタルで構成され、プラスチックの工業製品は使わず、自然素材の個性を活かしてつくりあげた独特の存在感を漂う外観となりました。
また、ダイニングの吹き抜け、通り土間と、大空間の多いK邸は、ALLの高断熱・高気密の構造によって、寒い季節でも快適に暮らせる環境を実現。Kさんが望んだとおりの温かく快適に過ごせる京町家が生まれました。
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