M邸は奈良市の閑静な住宅地の中にある傾斜地に計画されました。敷地の先には豊かな緑が一望できる恵まれた土地です。プランを考察するにあたり、この素晴らしい土地の魅力をいかに引き出しながら住空間に取り込んでいくかを軸に据え、M様夫妻が暮らす終の棲家として、自然が織りなす四季の変化を存分に楽しめる心地よい空間を生み出せるよう注力しました。
大きな高低差のある敷地特性を利用し、前面道路からは、その先に広がる素晴らしい景色を予感させない、直線的でダイナミックな構成のアプローチとしました。天井高さを抑え、デザインを削ぎ落とした素朴なエントランスは次の展開を期待させるには十分な効果を発揮しています。玄関ホールを抜けたその先には、木々が織りなすドラマチックな情景が広がっています。幅10m×高さ2.8mの大きな開口は、高い壁と長い庇とテラスによって効果的に切り取られた巨大なピクチャーウインドウとなり、訪れる人に四季折々の驚きと感動を与えます。建築が景色を邪魔しない脇役に徹するよう、できる限りシンプルにデザインを削ぎ落としたことも良い結果に結びついたと感じています。
鉄筋コンクリート造の耐震性に魅力を感じつつも、木造の住み心地を求めていたM様のご要望にお応えするため、鉄筋コンクリート造の躯体の中に、京北産のヒノキをふんだんに使用した木造下地を組み、リクエストの両立を実現しました。鉄筋コンクリート造だからこそ生み出せる大空間でありながら木造のぬくもりが感じられる空間に仕上がっていることも特筆すべきことだと思います。
四季にあわせて移ろう風景がM様の生活に豊かな彩りを添え、清々しさに満ちた上質な時間を過ごされることを想像し、M様に新たな活力を与える住まいになることを切に願っています。
M邸外観。家に入った時の驚きと感動を増大させるため、高さ3mの塀が敷地奥に広がる豊かな緑を全く気付かせない。
ダイニング上部は4方に開口を設けており、内2方はオペレーターによって開閉できる。高低差のある地形に沿って吹いてきた風が素直に吹き抜けるための工夫。
玄関ホールからLDKに入ると、幅10m×高さ2.8mの大開口によって切り取られた絶景が広がる。豊かな緑の存在は、LDKに入るまで全く予知できないような設計となっており、住宅街からリゾート地へ突然ワープしたような錯覚を起こす。
コンクリートの水平ラインが美しい外観。50帖分のテラスを支えるコンクリートスラブには柱や壁がなく、浮遊感のあるデザインが印象的。
エントランスの様子。ダイナミックな梁がアプローチへと誘う。
敷地内に立っていたクスノキの巨木が建築と一体になるように計画されている。家が建ってから育った木のように自然な関係を築いている。シナで仕上げられた庇は1.8m張り出している。
家事室からの眺め。天井には電動で昇降する物干し竿が格納されている。奥様が事務的なことをこなす場所でもあり、床暖とエアコンも完備されている。
浴室はフルオープンサッシとし、露天気分を味わえる。
リビングからの眺望も素晴らしい。内部天井と庇が一体に見えるよう共にシナ材で仕上げた。サッシ際のスリットにはロールスクリーンが収納されている。
夕暮れのLDK。天井高2.8m、広さ48帖の大空間では、長さ3.4mの大きなソファもゆったりと納まって見える。
ゲスト用の化粧室。壁面を飾るモザイクタイルは、イタリアに特注したベネチアンガラスを使用した奥様こだわりの逸品。
厚さ60mmのブビンガ無垢カウンターが囲うのはALLオリジナルの造作キッチン。ブビンガは九州から直接買い付けたご主人こだわりの逸品。
コンロユニットにはガスとIHが設置されている。プライベートエリアに繋がる通路に沿ってたっぷりの収納が並ぶ。
スリット階段を上った2階には美術品用倉庫と全面鏡貼りのトレーニングルームを確保。
アプローチを抜け、隠し扉のような玄関へ。玄関扉は小さく見えるが、コンクリート打放しのポーチ庇までの高さが3.2mあるためで、実際は幅1.1m×高さ2.4mの大きな建具である。電気錠が組み込まれている。
収納量たっぷりのシューズクローク。天井付近には欄間ガラスが設置されており、天井に貼られたシナは周囲の部屋と繋がっているため、相互に広がりを与え合う。