CASE 17 風雅な邸宅
いまも天然記念物のオオサンショウウオが棲む高野川。川を北に辿れば、比叡山の西麓を通って三千院や寂光院へとつながっています。おかげで京都市内の住宅地でも高野川の畔には、山の奥深くから川の流れとともにひんやりと澄んだ空気が運ばれてきます。
それに加え、Y邸の計画地からは五山の送り火で有名な浄土寺大文字山を正面に見通せます。そんな稀有な土地だから風致地区条例で厳しい制約がかかっているのは当然です。ちゃんとルールを守りながら、土地の持つ素晴らしい条件をどうやって住宅に取り込み活かし切るか、それと同時に、高野川に面した広い土地と道路をつなぐ間口4mの長い通路をどのようにデザインとして活かすかが設計の課題となりました。
プランニングは、山と川に面する東側に居室を集めてどこにいても「大文字」が眺められるようにしました。ただ、屋内から眺めるだけでは環境の良さを活かし切れないと考え、ダイニングの横にはアウトリビングを配置。川から運ばれてくる新鮮な空気の中、山や川を眺めながらくつろげる空間になっています。利用していない時でも屋内からの視覚的な広がりに貢献できるよう、床と天井は内外とも同じ高さに合わせ、壁には同じタイルを採用しました。オーナー曰く「毎日一度はアウトリビングに出るけど本当に気持ち良い」とのこと。一つ目の課題はクリアできているようです。もう一つの課題である細長い通路には、鉄骨の門型アーチを連立させ「くぐる」という演出を加えることで、家に至るための単なる通路を「ワクワク感を創出する装置」へと昇華できたのではないかと思います。
バーカウンターを備えた書斎や25帖のウォークインクローゼット、釣ってきた魚をさばく屋外キッチンなどこだわりの空間が集合して1つの建築として結実した、そんな住宅に仕上がりました。
こうして完成したY邸の家づくりを改めて振り返ると、京都市内でも有数といえる好立地での建築を託してくださったY様への感謝の気持ちが沸々と湧いてくると同時に、本当に楽しかった毎回の面談が思い起こされます。一つひとつの質とデザインにこだわり抜いたこの建築が、敷地やその周辺環境の価値をより良く高めていくことに寄与できればと願っています。

ダイニングの横に設けられたアウトリビング。外部でありながら屋根に覆われ、壁にはTV、天井にはビルトインエアコンが設置されている。目前を流れる高野川上流から新鮮な空気が運ばれてくるので、住宅街とは思えない清々しさが満ちている。内外の連続性を意識して、幅3.5m×高さ2.5mの特注木製サッシを採用した。また内壁と外壁を同じ割れ肌のタイルで仕上げることで内外の一体感をより自然なものにしている。

寝室はウォールナットの角材を使ったデザインとし、他の部屋と変化をつけた。壁のルーバーは一部が開閉式になっており、ウィンドウトリートメントを兼ねている。また日常の掃除を考慮し、ルーバーと床の取り合いはクイックルワイパーの厚み相当の隙間を設けた。黒い石で仕上げた壁に設置されている窓には、部屋全体の統一感を損なわないようにウォールナットを薄くスライスしてつくられたロールスクリーンをチョイス

約50帖のLDK。モダンな置き家具やラグはすべてMinottiで統一。リビングは幅2.6m×奥行1.4mのソファを対面させ空間に馴染む色に。1.2m角の大理石を使用したセンターテーブルの横にはアクセントとなるアームチェアとスツールを配置。ダイニングやアウトリビングの家具もオーナー自身が東京のショールームに出向き選定したもの。
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