二十歳の時 三途の川を見たことがある
辺りは見渡す限り真っ暗で景色はない
目の前には浅くて幅の広い砂利底の川が流れている
川の向こう岸には花畑があり 仄かに明るい
わたしは川に入り明るい方に向かって歩いていた
背後遠くから名を呼ぶ母の声が聞こえた気がして
振り返ったと同時に意識を取り戻した
現実の世界でも母が泣きながら
わたしの名を連呼していた
たくさんの管に繋がれた集中治療室のベッドの上だった
あのとき渡り切っていたら
命は絶えていたのだろうか